突破口。 [研究]

自分で行う研究とは基本的にアイデアを生み出してはそれを自分で潰すという作業の繰り返しだ。

自分がそこに存在すると思う事象を探す為に一人で仮説の乱立する森を歩き、データの砂漠をさまう。

そしてそれは突然やって来た。


いつもの様に天才ドイツ人ニルスとカフェで研究をしていた。

互いにトピックは別な物の、計量経済学で研究をしているので相談しやすいという理由で良く何処かのカフェに陣取って勉強したり研究したりする。

ニルスは風力発電への投資が地域経済へ与える影響を研究してる。

彼の今使っているモデルがあまり見込みが無さそうなのでパネルデータへ移行してはどうか?という話をしていた所で、恐らく地域経済成長モデルはAR(1)(つまり、前年の経済規模が今年の成長規模にも影響がある)になるだろうと思いついた。

その話をしている時に頭の中では自分のトピックについて考えていた。自分のケースでは同じ様な構造が存在しないのだろうか?
この時点では答えははっきりしていなかった。ただ、3年前の値段が2年前の投入量に影響して、投入量が今年の供給量を決定し、供給量によって価格が左右されるのであれば、3年前の値段は今年の値段への影響を持つ事になる。

そしてこのケースはDynamic Panel Dataと言えるんじゃないだろうか?
ニルスとの話が一段落してたので、話しながら考えていた事をまとまらないままにニルスに喋ってみた。
そして考えが詰まったので話を途中で止めて再び考え始めた。そしてニルスがトイレへと行く。

そしてふと思った。
俺の扱っている市場に同時性(simultaneity)ははたしてあるのだろうか?
普通の商品の場合、供給と需要は同時に決定される。つまり、相互に影響し合う訳だ。

しかしサーモンの場合、一定期間に置ける供給量は2年前にどのくらい稚魚を入れたかで決定される。
つまり、供給は需要とは同時には決定されないのだ。
供給は過去の需要によって決定する。

この時点ではまだ考えが曖昧だった。
そしてここで思いつく。
あぁ短期的な供給決定と長期的な供給決定があるのか。と。

長期的な供給決定は過去の需要によって行われる。そしてここには同時性は存在しない。
短期的な供給決定は現在の需要(=価格)によって行われる。そしてここには同時性が存在する。

そしてニルスがトイレから帰って来てこう言った。
「考えてたんだけど。多分供給決定には短期と長期があるんじゃないかな?」

そこから30分くらいはモデルを作り直したり色々確認したりとしていた。
そしてまた一つ壁に当たった。

短期的な供給決定には同時性が存在する。
という事はendogeneity problemを解決する為にIV methodを使わなくては行けない。
よって、短期供給には影響するけれども、価格には影響しないデータを探し当てなくては行けない。
正直望み薄だと思った。なぜなら大体のデータは年間データで、あまり細かい事はデータとして上がってこないからだ。
過去にノルウェーの漁業組合のデータベースに保存されている変数の一覧を研究ノートに作っていたので、それを眺めていた。

養殖者はある程度の時期が経ったらサーモンを収穫したいと考えている。なぜなら成長速度は遅くなって行くのに餌代がかさんで行くからだ。だったらさっさと収穫して新しく稚魚を入れた方が儲かる。
じゃぁもし年明けに大量に去年のサーモンが余っていたらどうするだろうか?もちろん売りに走るだろう。つまり、去年のあまりは今年の供給量に関係がある訳だ。そして、余剰サーモンの変動が与える価格への影響は当然少ない。
一つあった疑問は、
もし去年の価格決定が今年の価格決定に影響があるとして、去年の価格が去年の過剰サーモンの量と相関しているならば、去年の余りのサーモンはIVとして有効ではなくなる。
という物だった。

それを確かめる為に単回帰で相関を調べた所、去年の価格と去年の過剰サーモンに相関は無かった。




そして夜家に帰り、短期決定モデルを推定してみた所、全てが上手くいった。
1%の供給増に対して、価格は0.13%の低下を示した。
そして、長期決定モデルでは、1%の去年の価格上昇に対し0.18%の供給増を見せた。

つまり供給曲線のカーブが需要曲線のカーブよりも強い。これはまぎれも無く探し求めていたcob-webモデルの条件であり、cob-webモデルは周期性を説明する。

その後は興奮して寝れなかった。

眠くなるまでゲームと映画で時間をつぶし、
朝起きると同時にもう一度分析してみた。

幾らかの仮定をクリアしないといけない事に気がついたけれども、基本的に間違いは無さそうだ。
そのあと久々に買ったパンにスモークサーモンとチーズを乗っけてオーブンで焼き、分析結果を見ながらコーヒーと共に食べた。はじめてノルウェーにようこそと誰かに言われた気がした。

今日からイースター休暇なので、教授と結果に付いて相談する事は出来ない。
けど、イースターが終わったら結果を教授に見せて、お墨付きが貰えたらこれを論文にして卒業研究はおしまいになる。
実はもうちょっとやりたい事があるのだけれども、ちゃんとデータが手に入るかが解らないのでひとまずは置いておこうかと。

暫くはこの結果が砂上の楼閣でない事をチェックする為に教科書とにらめっこになりそうです。
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